【北京=中沢穣】中国による発展途上国への新型コロナウイルスワクチンの供給量が今年に入って激減している。効果面への不信感から中国製ワクチンが敬遠されたほか、世界全体でワクチン接種のペースが落ちて欧米製の供給に余裕が出たことなども背景にある。
英医療調査会社「エアフィニティ」によると、科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)、中国医薬集団(シノファーム)、康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)の中国3社が製造したワクチンの海外向け供給は、昨年11月に過去最多の2億3500万回分に達した。しかし今年1月に5100万回分に激減。3月は1100万回分にとどまり、昨年11月から95%も減った。中国製は国内向けを除き、大部分が途上国に供給されている。
一方、国連の統計によると、米ファイザー製ワクチンの途上国向け供給は1月に9100万回分で、3月は4600万回分だった。途上国向けの供給量でファイザー製が中国製の総量を上回ったのは初めてとみられる。
背景には重症化しにくいオミクロン株の流行により、ワクチン接種への意欲が世界的に低下していることがある。さらに「不活化ワクチン」という従来型の技術を使う中国製ワクチンはファイザー製などに比べて有効性で劣るとされ、真っ先に需要が急減した。
◆「各国は中国の貢献を称賛した」と自賛
新型コロナ禍で中国が進めてきた「ワクチン外交」が事実上、終焉した。中国製ワクチンに対する信頼性の低さから需要が落ちこんだのが理由だ。それでも自国のワクチン確保を優先した欧米や日本と比べ、早くから途上国への供給を続けてきた中国は影響力強化に一定の成果を上げたといえる。
「各国指導者や国際機関トップは防疫に対する中国の貢献を何度も称賛した」
中国の習近平国家主席は今年の新年の辞で、中国が120カ国以上に対し、20億回分のワクチンを供給したと自賛した。昨年12月には、アフリカ諸国に向け、10億回分を追加提供する方針も表明している。
新型コロナワクチンをめぐる習政権の動きは速かった。まだ実用化されたワクチンが存在しなかった2020年5月、習氏は世界保健機関(WHO)の総会で、ワクチンを「国際公共財にする」と宣言した。習政権は「中国のワクチン協力に政治的な意図はない」(王毅国務委員兼外相)などと説明してきたが、途上国への影響力強化を図る意図は鮮明だった。
◆途上国が中国製に依存
中国はウイルスを無毒化した「不活化ワクチン」の技術を使い、いち早く新型コロナ用ワクチンの開発に成功。豊富な生産能力を生かして世界で接種されたワクチンの半分は中国製となった。WHOや北京に拠点を置く「ブリッジ・コンサルティング」によると、中国は自国産ワクチンの約3割を国外に向け、アジア太平洋と中南米への供給が85%を超える。
中国の供給は掛け声ほど気前がよかったわけではない。途上国向け無償供与は国外向けの1割程度にとどまる。それでも、途上国ではおおむね好意的に評価されているようだ。
日本を含む先進国は自国民へのワクチン確保で手いっぱいとなり、途上国への供給は後回しとなった。北京在住のアジア外交筋は「欧米製の入手が難しかった時期に、中国製のみが頼りとなった」と指摘。ワクチンの主要生産国であるインドが輸出を禁じたのも、中国製への依存を強める結果となった。
◆需要減で逆風
しかし今年に入り、重症化しにくいオミクロン株の流行によって、先進国では追加接種への意欲が低下し、途上国でも接種の優先度が下がった。インドも輸出制限を緩和しつつあり、ワクチン供給に余裕が出た。
需要減は、効果面で信頼性に欠ける中国製を直撃した。香港メディアによると、中国製の主要受け入れ国だったインドネシアとブラジルは、昨年末で切れた購入契約を更新しなかった。中国税関当局の統計では、昨年12月に76億元(約1500億円)だったワクチンの輸出額は今年2月に5億元に落ち込んだ。
ただ、中国製の需要がなくなっても、欧米や日本が遅れを挽回したとはいえなさそうだ。前出の外交筋は「最も必要な時期に欧米製のワクチンは届かず、欧米や日本への失望感は消えない」と話した。
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