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半導体不足の解消はまだ先の理由、アップルの「ポストGAFA戦略」に注目 - Esquire(エスクァイア 日本版)

例えば、米アップルは新しいチップである「M2」を発表した。世界のネット業界は、GAFAなどが一手にサービスを提供してビッグデータを事実上タダで手に入れる「ウェブ2.0」から、ブロックチェーンを用いて個々人が自分のデータを管理するようになる「ウェブ3.0」に向かう。次世代チップ開発を強化するアップルはそうした見方を強めている。

当面、世界の半導体需給は
ひっ迫した状態が続く

世界全体で汎用型から最先端まで半導体不足が深刻だ。要因として、まず、半導体を使用する分野が広がり、需要が飛躍的に拡大していることがある。加えて、コロナ禍と脱グローバル化の影響も大きい。

昨年夏、コロナ・デルタ株による感染再拡大によってマレーシアにあるインフィニオンなどの車載半導体工場の操業がストップした時も、われ先にと半導体の在庫確保を急ぐ企業が増えた。

コロナ禍の影響だけでない。米中対立やウクライナ危機をきっかけとする世界経済の脱グローバル化が加速したことも、半導体サプライチェーン全体で供給制約(ボトルネック)を深刻化させている。

そうした状況下、世界経済のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が加速している。インターネット・オブ・シングス(IoT)技術の普及によって、これまで半導体が使われてこなかったモノにも、センサーやチップが搭載されるようになった。当面、世界の半導体需給はひっ迫した状態が続く。短期間で世界の半導体不足が解消されるとは考えづらい。

急拡大する半導体の需要
TSMCの5月の売上高は約8400億円に

中長期的に各国でDXが加速し、家庭や生産施設ではIoT技術の実装が急速に進む。

  • 自動車の電動化や自動運転技術の利用
  • 通販や金融などのオンラインサービス
  • ビッグデータの収集と分析、利用のためのデータセンタ建設
  • クラウド・コンピューティング・サービスの利用
  • テレワーク、5G通信の普及に伴う基地局増設

なども半導体需要を押し上げる。

脱炭素を背景とする蓄電池需要もパワー半導体需要を急拡大させている。一部では、半導体原材料のシリコンウエハーの段階から、在庫を押さえにかかるメーカーも出始めているようだ。

自社専用に設計された、あるいは製品ごとに特別に設計された半導体ではなく、汎用型の半導体を用いて完成品の生産を目指す企業も急増している。「産業のコメ」としての半導体の重要性は一段と高まっている。

green microchip set in a blue printed circuit board

crstrbrtGetty Images

そうした環境から、台湾積体電路製造(TSMC)の業績は急拡大している。2022年5月単月の連結売上高は、前年同月比で65.3%増え、1857億500万新台湾ドル(約8400億円)に達した。

TSMCや台湾の聯華電子(UMC)、韓国のサムスン電子など大手ファウンドリーは、相次いで受託製造料金の値上げを発表している。中国のゼロコロナ政策やウクライナ危機により増加するコストの吸収と、過度な需要の膨張を抑えるために値上げは今後も続くだろう。

また、半導体を製造する装置の供給も遅れている。最先端の回路線幅5ナノメートル(ナノは10億分の1)のチップ生産に重要な、極端紫外線(EUV)露光装置を生産できるのはオランダのASMLのみだ。ただし、ASMLが用いるレンズなどの生産能力が不足しているため、最先端の半導体製造装置の供給が、半導体の需要拡大のスピードに追いついていない。

汎用型の製造装置に関しても同様で、半導体不足が製造装置の供給遅延の要因にもなっている。

今のところウクライナ危機は
半導体生産に
深刻な打撃を与えてはいない

世界的な半導体不足の背景には、大きく2つの要因がある。まず、コロナ禍だ。感染対策によって動線が寸断され、世界で供給のボトルネックが深刻化した。他方で、テレワークの急速な浸透などによってPC、スマートフォン、クラウド・コンピューティング・システム、高性能サーバーの需要が急増し、半導体の需給が急速にタイト化した。

さらに、21年の夏にはデルタ株による感染再拡大によって、車載用の半導体工場が集積したマレーシアで、STマイクロとインフィニオンなどが生産停止に追い込まれた。また、中国でのゼロコロナ政策はシリコンウエハーの原材料である珪石(けいせき)などの生産や輸送を大きく停滞させた。

二つ目が脱グローバル化だ。1990年代の初頭以降、世界の半導体産業は国際分業体制(設計・開発と生産の分離)を強化して高成長を実現した。しかし、2018年に米トランプ政権がITなど先端分野における中国の競争力向上を阻止するために対中制裁関税などを実施した。それを境に状況は一変し、世界の半導体サプライチェーンは大きく混乱した。

対中制裁により世界の半導体サプライチェーンから中国の大手ファウンドリーである中芯国際集成電路製造(SMIC)が事実上シャットアウトされた。主要先進国の企業は米国の対中制裁違反を恐れ台湾や韓国のファウンドリーに委託を増やし、生産ラインがひっ迫した。SMICは米国の知的財産や技術を用いた半導体製造装置などの確保が困難になり成長が鈍化した。

ウクライナ危機によって脱グローバル化は激化した。原油や天然ガスなどエネルギー資源の価格が高騰し、世界的に電力や基礎資材の価格が急速に上昇している。なお、14年のクリミア危機の際、ウクライナからの希ガス供給が減少するとの懸念が高まり、ネオン価格が6倍に高騰した。その後、世界の半導体メーカーは希ガス調達源を分散した。

今のところウクライナ危機は半導体生産に深刻な打撃を与えてはいないようだ。それ以上に、エネルギー資源などの価格上昇が半導体関連産業に与えるインパクトが大きい。脱グローバル化によって世界に毛細血管のように張り巡らされた半導体サプライチェーンの寸断は一段と深刻だ。

米アップルは新チップ「M2」を発表
世界のネット業界は「ウェブ3.0」へ

現時点で、世界の半導体不足がすぐに解消される展開は想定できない。メモリ半導体の分野ではDRAMの価格が下落し始めているが、それ以上にパワー半導体やマイコン、次世代半導体の需要が急増している。

例えば、米アップルは新しいチップである「M2」を発表した。M2は5ナノメートルの回路を搭載し、競合チップの2倍近い性能を持つ。

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世界のネット業界は、GAFAなどが一手にサービスを提供してビッグデータを事実上タダで手に入れる「ウェブ2.0」から、ブロックチェーンを用いて個々人が自分のデータを管理するようになる「ウェブ3.0」に向かう。チップの演算能力や消費電力性能の向上はビジネスチャンス獲得に不可欠だ。次世代チップ開発を強化するアップルはそうした見方を強めている。

その一方で、半導体の供給能力の向上には時間がかかる。直近で、世界の半導体供給が様変わりし始めた。例えば、TSMCは台湾や中国で生産能力を強化し、成長を実現した。しかし、台湾海峡の緊迫感が高まる中でTSMCが台湾を拠点に事業運営体制を強化し続けることは難しい。

ゼロコロナ政策の長期化や米中対立の先鋭化などの懸念を背景に、中国一辺倒の事業体制を見直し始める企業も増えた。ウクライナ危機の長期化懸念も高まっている。一朝一夕に供給能力を引き上げることは難しい。

インテルやASMLのトップは、「半導体不足は24年前半頃まで続く」と予想している。生産ラインの争奪戦が予想される中、わが国の主力産業である自動車の生産は停滞基調で推移する可能性が高い。

コロナ禍と脱グローバル化による半導体不足を克服するために、わが国企業はサプライチェーンの再編を迅速に進めつつ、新しい需要を創出して半導体メーカーとの交渉力を強化しなければならない。世界的な新しいヒット商品の創出によって競争力を向上するという意味では、本邦企業の実力がこれまで以上に試されることとなる。

※この記事は2022年6月21日に公開されたものです。

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