首都圏に近く、企業のワーケーションや滞在型研修の需要が高まっている熱海市で、新しいタイプの宿泊施設が23日、オープンした。来訪者が熱海の生活文化や課題に触れながら市民と交流するための拠点で、運営会社はまちの関係人口の増加を目指す。交通弱者支援や空き家問題など同市が抱える課題の解決に向けて、市民と市外の企業、人材の共創が期待される。
宿泊施設は、若者が行き交う熱海銀座商店街に立つビルの2、3階に、同市のまちづくり会社マチモリが開業した。ここ数年、店舗出店の需要が高く、地価が上昇傾向にある同市だが、中心市街地には築年数が古く、上層階が空室になっている物件が多い。宿泊施設が入るビルも2階以上が長年空室だった。
一方で、新型コロナウイルス禍に伴う働き方改革で、職場や自宅の場所にとらわれないライフスタイルに関心が高まっている。宿泊施設は遊休不動産の有効活用とともに、熱海に関わる企業や人材を呼び込むことを狙いに開業した。
施設には、カプセルタイプの8室と個室5室がある。不動産情報サービス会社ライフル(東京都)の定額多拠点居住サービスに登録されていて、メンバー登録すると定額で何度でも利用できる。
マチモリが運営するコワーキングスペースとも連動し、同社が展開する熱海の課題解決をテーマにした企業研修や事業開発支援が受けられる。
同社の市来広一郎代表(43)は「市内にはまちづくりのプレーヤーが育ってきているが、課題が進むスピードは速い。それに追いつくためには、市外の企業や人材の力が必要」と強調する。企業側も将来の事業展開を見据え、地域に横たわるさまざまな課題からビジネスチャンスを見いだそうとする動きが活発化しているという。その過程で地域に深く関わろうとしたり、まちづくりイベントに参加したりする企業が増えているという。
地域にも企業にもプラスになる取り組みを進めるためには、行政の積極的な関与も欠かせない。熱海市は本年度、首都圏の企業をターゲットにした研修や開発会議などの誘致を本格化しようとしている。もともとの狙いは、観光の繁忙期や週末以外にも安定的に宿泊客を呼び込むことが目的のようだが、まちの課題解決に資する実証実験の場を積極的に提供するなどして民間の取り組みを力強く後押ししてほしい。
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