ロシアによる天然ガス供給停止は、欧州の排出量取引制度にも影を落とす。政府が期待する脱炭素エネルギーへの燃料転換は進んでいない。
天然ガス需給ひっ迫を背景に、石炭が欧州の発電燃料に「再び組み込まれつつある」とトレーダーが警告する中、欧州連合(EU)の排出量取引制度(EU ETS)で売買される排出枠価格(炭素価格)が2022年8月19日、過去最高値を更新した。
排出枠が99ユーロを突破
EU ETSの規制を受ける企業は、1t単位でCO₂排出を相殺するために排出枠(EUA)の購入が義務付けられている。その排出枠価格は、22年8月19日午後の取引で99ユーロ(約1万3850円)を突破。ウクライナ侵攻前の2月に98.49ユーロを記録したが、これを上回った。排出枠価格は8月までに28%上昇している。
トレーダーによると価格上昇の主な要因は、ロシアが欧州への天然ガス供給を抑制する中、23年の天然ガス供給契約が急増したことにある。
そのため、天然ガスに代わる燃料として、発電用石炭を燃焼するケースが増えることは、EUが厳しい冬を乗り切るための短期的な現象にとどまらない可能性が高まっている。
あるエネルギーヘッジファンドのアナリストは、「ガス価格の長期的な上昇を受けて、石炭が欧州のエネルギーミックスにおいて再び存在感を増しつつある。石炭火力発電事業者は、1~3年後に予想される追加の需要をヘッジするために、排出枠を購入し始めている」と話す。
ロシア国営のガスプロム(左)はドイツなど欧州への天然ガス供給を制限。ドイツ電力大手のRWEは石炭火力発電(右)への回帰を余儀なくされている
(写真:AFP/ アフロ(左)、AGE FOTOSTOCK/ アフロ(右))
EU ETSでも石炭増の理由
排出枠価格が上昇すれば、電力会社が石炭の半分程度しかCO₂を排出しないガスを燃料として採用するようになり、また、CO₂排出量の少ない再生可能エネルギー電源の採用が進むものと考えられていた。ところがガス価格の高騰はあまりにも激しく、過去10年にわたる平均価格の10倍以上で取引されている。そのため、安価な石炭を使いながらCO₂排出を相殺するための排出枠を調達する方が、排出枠コストを追加で払っていても利益が得られ、電力会社にとっては有利になる。
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