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ビール値上げ 10月1日以降 なぜ?原材料の価格高騰が原因?|サクサク経済Q&A - nhk.or.jp

ビール大手4社が10月1日以降の出荷や納品分からビール類の価格を引き上げます。各社によると店頭価格は最大で13%の値上がりになると見込んでいて、ビール愛飲家には財布の負担がずしりと重くなります。缶ビールの値上げはおよそ14年ぶり。そもそも理由は何なのでしょうか。取材を進めると国際情勢との深いつながりや意外な要因が分かってきました。ロサンゼルス支局の山田奈々記者と経済部の河崎眞子記者に聞きます。

私が大好きなビール、なぜ値上げなのですか?

経済部で流通業界を担当している河崎が説明します。

ニュースでは原材料価格の高騰が原因だと見聞きしますよね。

ビールではほぼすべての原材料価格が上がっていて、主にはアルミや麦芽などがあげられます。

河崎記者

河崎記者

アルミや麦芽?詳しく教えて。

アルミから説明しますね。

ビールが入っているアルミ缶を製造するには、ボーキサイトと呼ばれる鉱石を加工してアルミナという物質を作ります。

このアルミナを電気分解するとアルミニウムができ、それを延ばしたり鍛造したりするなどしてアルミ缶になるんです。

このうち、アルミは電気自動車の部品の“軽量化”などのためにも使われるようになり、世界的に需要が増加、価格が上昇したのです。

河崎記者

河崎記者

電気自動車のニーズ拡大が缶ビールの値上げに…

もうひとつは、缶になる手前の新地金という原材料です。

その生産量はロシアが世界第3位なんです(2021年統計)。

ロシアによるウクライナ侵攻で、制裁の影響など供給に対する懸念が高まり、この新地金の国内価格も上昇傾向にあったのです。

2022年7月から9月の価格は前年同期比で50%も上昇しています。

河崎記者

河崎記者

もうひとつが麦芽でしたよね?

ここからはロサンゼルス支局の山田が担当します。

ビールの原料はさまざまですが、麦芽=大麦も主要な原料です。

この大麦の価格が上昇傾向なのです。

大麦の産地はさまざまですが、日本も輸入している主要な産地の1つ、カナダの農家を取材しました。

するとおもしろいことが分かりました。

山田記者

山田記者

何でしょうか?

大麦には家畜のエサに使われるものと、ビールの原料向けのものと、大きくわけて2種類あります。

このうちエサ用の大麦は、ロシアとウクライナの2か国で世界の輸出のおよそ30%を占めていて、軍事侵攻の影響で輸出が滞るのではないかとの懸念から価格が一気に跳ね上がったのです。

特に、ウクライナが輸出しているエサ用の大麦の70%は中国が輸入していました。

ウクライナから輸入できなくなったことで、中国がほかの国から手に入れようとしたことも価格の上昇につながりました。

山田記者

山田記者

実際、どれくらい価格が上がったんですか?

こちらは、カナダのアルバータ州のエサ用の大麦の価格の推移を、州政府のデータをもとに示したグラフです。

1トンあたりのエサ用の大麦の価格の推移を表しています。

カナダは去年、深刻な干ばつに見舞われるなどしたため、すでに去年から価格の上昇が始まっていましたが、そこに拍車をかけるようにことし2月、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が勃発。

侵攻開始からおよそ3か月後の5月27日の週には、469カナダドルまで上昇しました。

前の年の同じ時期と比べておよそ37%も上昇したのです。

山田記者

山田記者

肝心のビール用の大麦は?

ロシアはビール用の大麦も生産していますが、主に自国用で、輸出は少ないため、理屈でいえば価格への影響はないはずです。

ところが玉突き現象とも呼ぶべき事態が起きていたんです。

山田記者

山田記者

大麦の玉突き現象?

エサ用とビール用では、通常では人の口に入るビール用の方が品質の管理が厳しく、作るのに手間暇がかかるため、取り引きされる価格が高いんだそうです。

ところが軍事侵攻によってエサ用の価格が上昇、平時にはない価格の逆転現象が起きました。

そこで畜産農家は気がつきます。

家畜にビール用の大麦を与えた方が安上がりじゃないかと。

用途は違っても大麦は大麦です。

山田記者

山田記者

なるほど、賢い!

結果としてビール用大麦の需要が高まります。

もう1つは大麦農家の視点です。

ビール用は品質のチェックが厳しく、出荷までに時間がかかります。

それなら今生産しているビール用を、エサ用として早く出荷するほうが簡単にもうけられるとして、ビール用をエサ用として出荷してしまう農家が増えたというのです。

さらにビール用は、前に述べましたように高い品質が求められるため、生産するのに多くの肥料を使うなどコストがかかります。

大麦農家の立場からすれば、コストをかけてビール用大麦を作るより、少ない肥料でエサ用を作ったほうが生産コストを抑えることができ、利益率が高いという状況が生まれたわけです。

インセンティブを失い、ビール用の生産を減らす大麦農家が増えたということです。

山田記者

山田記者

需要が高まると同時に、在庫や生産も減少、ということはダブルパンチでビール用の大麦の価格が上がることになりますよね。

はい、そのとおりです。

これがビール値上げの要因になっているのです。

しかも世界的に起きているので各国の争奪戦になっています。

山田記者

山田記者

知りませんでした。

黄金色のビールの向こうに複雑な国際情勢があるとは!

カナダのビール大麦の生産や流通を管理している研究機関、「CMBTC」がことしまとめた報告書には、「歴史的な供給不足で、カナダ産のビール用大麦の需要が高まると予測される」と書かれています。

CMBTCのピーター・ワッツ最高責任者は次のように話します。


「価格の変動にかかわらず、アメリカや日本、中国からは一定の需要がある。最近ではカナダ産のビール大麦や麦芽に関する問い合わせが増えていて、中南米や南アジアなどからも問い合わせがある」

連日のように見聞きする値上げのニュース。

正直、うんざりする方も多いと思いますが、1つ1つその要因は異なります。

源流をたどっていくと国際情勢の動きや意外な需給の変化が分かります。

ビールの泡の向こうでは日々、さまざまな経済が動いています。

山田記者

山田記者

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