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「材料不足、需要減、人員不足」の三重苦広がる 苦境にあえぐ中小 ... - 東京新聞

<コロナ8つの波〜あれはどうなった?〜第6波>

 2020年1月に始まった日本での新型コロナウイルス感染流行。まもなく丸3年というこのコロナ禍は、現在を含め大きく8つの感染大流行期、すなわち「波」となって日本社会を襲い、人命や健康を損なわせ、生活や人々の意識を大きく変えた。それぞれの波を振り返り、当時騒がれたことの実相と今に残る課題を探ってみた。(文中敬称略、中山岳)

 第6波 2021年11月〜22年5月。オミクロン株の流行で全国の感染者数は22年2月上旬にピークとなり、10万人余に達した。1月9日から沖縄、広島、山口の3県にまん延防止等重点措置が適用。同27日には34都道府県に広がり、3月21日に全面解除された。同25日に開幕したプロ野球は、3年ぶりに観客人数の上限が撤廃された。

◆注文が戻りかけてきた時期に感染者急増

コロナ禍について話す小倉メリヤス製造所の小倉大典社長=東京都墨田区で

コロナ禍について話す小倉メリヤス製造所の小倉大典社長=東京都墨田区で

 東京都墨田区の錦糸町駅から10分ほど歩くと、真新しいビルが見えてきた。1階にある「小倉メリヤス製造所」。以前の本社を2022年10月に建て替え、上階は賃貸マンションに。社長の小倉大典だいすけ(45)は「コロナ禍に建て替えたのは大きな決断だった」と話す。

 同社は1929年に小倉の祖父、信作が創業。小倉は2015年、父の和男から社長を継いだ。栃木県佐野市や中国・上海市に工場を構える。半世紀近く、ベビー服や子供服を作ってきた。例えば孫がピアノの発表会に出る時、おじいちゃんやおばあちゃんが贈るような、おしゃれな服だ。大手アパレル企業の有名ブランド品なども多く受注し、手がけてきた。

 だが、コロナ禍の外出自粛でそうした商品は需要が激減。20年4月に緊急事態宣言が発令されると、「会社の電話はぴたっと鳴らなくなった」。さらなる試練は、21年夏の東京五輪後にやってきた。注文が戻りかけていた時期に「第6波」が襲った。

 感染力の強いオミクロン株が広がり、22年1月から感染者は急増。小倉メリヤスの商談は次々に中断した。栃木工場の様子を見に行こうとすると、現地で働く職人たちからは感染リスクを気にして「社長、来ないでください」と言われたことも。「糸へんのものづくり」を自負してきた小倉にとって、厳しい日々が続いた。

 さらに、「泣きっ面に蜂」の事態も起きた。上海の工場が同3月末〜5月末、ロックダウン(都市封鎖)で稼働できなくなったからだ。第6波が終わった5月の売り上げは、過去20年で最悪だった。

◆「脱下請け」に活路、金策にも奔走

 コロナ禍でいったんは絶望したという小倉は「大手の下請けを続けるだけではだめだと、発想を変えた」と語る。少量でも個人からの注文を直接受けるように。子供服に限らず、人形に着せる洋服、トートバッグ、エプロン、ペット用の革製の首輪…。「縫えるものなら、何でも相談に乗る」。少しずつ受注が増え、SNSで人気のインフルエンサーからオリジナル服の注文もあった。

 金策にも奔走。日本政策金融公庫から実質無利子、無担保の「ゼロゼロ融資」を約1億円借りた。従業員が制限勤務になった時期には、雇用調整助成金(雇調金)を利用。「売り上げがへこんでも、資金繰りにそこまで悩まなかったのはありがたかった」と話す。

 コロナ禍は飲食業の苦境に注目が集まりがちだが、繊維業者もダメージは大きい。帝国データバンクの調査によると、回答した約1万1500社のうち、第6波の22年2月時点で7割超が「マイナスの影響がある」と回答。繊維製品を含めたアパレル製造業者に限ると、8割超に上った。製造業を中心に「材料不足、需要減、人員不足」の三重苦が全国的に広がったとされる。

 繊維業者が多い墨田区でも、小倉の知る限り2社が廃業した。「経営者が高齢で後継者もいないと、コロナ禍が引き金で廃業するケースはある」

 小倉メリヤスは、コロナ禍に受けた融資の返済が23年から本格的に始まる。売り上げは以前の水準にまだ戻っていない。それでも、小倉は前を向く。本社の建て替えにも踏み切った。

 会社の歴史を振り返れば、東京大空襲で工場が焼失しても、祖父は焼け野原に建て直した。「コロナ禍で何とかしようと動きまくった結果、新しい芽も出てきた。魅力的な会社に育て、ものづくりのたすきを次の世代につなぎたい」と話す。

◆雇調金などで倒産は減少も…

雇用調整助成金の受け付け業務に追われる千葉労働局の非常勤職員ら=千葉市中央区で

雇用調整助成金の受け付け業務に追われる千葉労働局の非常勤職員ら=千葉市中央区で

 3年に及ぶコロナ禍で、多くの中小企業は苦境にあえぐ。墨田区は売り上げが減った中小企業を対象に、金融機関の融資をあっせんしている。融資額2000万円を上限に、必要な保証金や利子の一部を区が負担。2020年度は1886件(約124億円)、21年度は1493件(約184億円)の申請があった。

 22年度の申請は減っているものの、経営支援課長の塩沢満は「これまで融資を使わず我慢してきた業者でも、申請を検討するケースが出ている。厳しい状況は続いている」と話す。

 一方、倒産は全国的に少なく抑えられてきた。帝国データバンクによると、21年度の倒産(負債1000万円以上)は5916件。6000件を下回ったのは56年ぶりだった。一因は、国や自治体による金融支援策。雇調金、ゼロゼロ融資、休業要請に応じた事業者に対する協力金などが相次いで実施され、一定の効果があったとされる。

 ただ、雇調金を巡っては、22年9月末までに不正受給が累計920件、総額約135億9000万円に上る。ゼロゼロ融資では、中日信用金庫(名古屋市)の職員が事業者の売上高を改ざんするなどした不正融資も発覚。中日信金は同月、業務改善命令を受けた。

◆ゾンビ企業は18万社超 融資「このままでは返せない」

 別の懸念もある。帝国データバンク情報統括部の太宰俊郎は「もともと多くの債務を抱え、倒産してもおかしくなかったにもかかわらず延命した『ゾンビ企業』が増えている」と述べる。

 同社が国際決済銀行の指標に基づき推計したところ、21年度の日本におけるゾンビ企業は18万社超、全企業の12.9%にあたる。19年度(同14万社超)、20年度(同16万社超)と2年連続で増加。こうした企業のうち7割超がコロナ関連の融資を受け、2割は「返済に不安がある」と回答した。

 都道府県別のゾンビ企業率を見ると、福島が19.8%で最多。宮城(同18.5%)が次いで多い。背景には、東日本大震災や東京電力福島第一事故で被災した企業の多くが補助金を受け、金融機関への返済を繰り延べた影響もあるという。

 福島県商工会連合会の指導部長、為田敦は「震災後に経営が苦しくなり、二重のローンや複数の融資を受けた企業もある」と語る。相談窓口にはそうした企業から「返済を繰り延べてほしい」「このままでは返せない」といった声も寄せられている。

◆人口減などで国内市場は縮小「新しい発想が必要」

自動車部品製造工場のプレス機の前に立つ従業員=東京都大田区

自動車部品製造工場のプレス機の前に立つ従業員=東京都大田区

 半世紀にわたって全国の中小企業に足を運び、研究してきた一橋大名誉教授(中小企業論・地域振興論)の関満博は「多くの中小企業の経営者は自分の給料を抑えても雇用を維持するなど、一生懸命やっている。コロナ禍は大震災と同様、個々の努力ではどうしようもない緊急事態でもある」と指摘する。

 ゾンビ企業という見方より、直視すべきは「人口減と高齢化により、多くの産業で国内市場は縮小している。企業は現状維持の考えから抜け出し、業態転換を含めて新しい発想でこれからの時代に対応することが求められる」と喝破する。

 ただ中小企業の場合、後継者不足や、海外進出するにも資金難や計画調整できる人手がいないといった課題も抱える。関はコロナ収束後を見据え、市町村が地元の企業を支えて育てる重要性も説く。「自治体職員は、国の補助金などをやみくもに申請して『当たった』という意識ではだめだ。地場産業を維持し、成長させるために何が必要か。本気で考えない限り、多くの産業で倒産や廃業が増え、衰退する一方になりかねない」

◆デスクメモ

 小倉さんの会社がある地域をよく訪れる。黒湯が流れる銭湯。老舗のうなぎ店。年配女性が鍋を振る町中華も。ただ、コロナ禍は心地よい下町の空気を一変させた。そんな中で試行錯誤し、活路を開こうとしてきたのが小倉さんだ。この粘り強さが周囲の励みになればと思っている。(榊)

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