欧州会計検査院(ECA)は6月19日付の報告書で、EUは電気自動車(EV)用バッテリー生産競争で劣勢にあると発表した(プレスリリース)。EUは2035年までに新車ゼロエミッション化という目標(2023年3月30日記事参照)を掲げ、バッテリーの生産拡大に力を入れているが、原材料へのアクセスや投資の魅力、コスト面で弱く、増加する需要を満たすには十分でない可能性があると指摘した。
ECAによると、欧州のバッテリー産業は、世界の競合、特に世界の生産能力の76%を占める中国に後れをとっている。EUが世界のバッテリー生産をリードする取り組みを飛躍させるため、欧州委員会は2018年に域内のバッテリー産業育成の戦略的行動計画(2018年10月17日記事参照)を発表。2014~2020年に欧州のバッテリー産業は少なくとも17億ユーロのEU補助金などを受け、さらに2019~2021年に、主にドイツ、フランス、イタリアで60億ユーロ規模の国家補助が承認された。しかし、ECAは、欧州委が産業全体の公的支援を把握しておらず、適切な調整、目標設定ができていないと問題視した。
EUのバッテリー生産能力は急拡大しており、2020年の44ギガワット時(GWh)から2030年までに1,200GWhまで成長する可能性がある。しかし、ECAは次の3点の地政学的・経済的要因によって達成は左右されると指摘した。
- バッテリーメーカーが生産拠点として、EU以外の地域、特に米国を選ぶ可能性がある。米国はバッテリー生産や米国製部品を使用した米国製EVの購入に直接補助金を提供している。
- EUは原材料の多くを、貿易協定を締結していない複数国からの輸入に依存している(例:未加工リチウムの87%はオーストラリアから、マンガンの80%は南アフリカ共和国とガボンから、未加工コバルトの68%はコンゴ民主共和国から、未加工天然黒鉛の40%は中国から)。欧州に鉱山はあるものの、発掘から生産まで少なくとも12~16年かかり、需要増加に迅速に対応することは不可能だ。現在の貿易上の取り決めでは、2~3年分の生産分しか確保されていない。
- 原材料とエネルギー価格の高騰で、EUのバッテリー生産の競争力が低下する可能性がある。2020年末時点で、電池パックの費用〔1キロワット時(kWh)当たり200ユーロ〕は既存計画の2倍以上となっており、過去2年間だけでも、ニッケルの価格は70%以上、リチウムの価格は9.7倍上昇している。
報告書は、欧州のロードマップでは2030年までに約3,000万台のゼロエミッション車が使用され、2035年以降に登録される新車はほぼ全て電動になる可能性がある一方、EUの戦略は、これらの需要を満たすためのバッテリー産業の能力を評価しておらず、数値化された期限付きの目標もないと批判した。
EUのバッテリー生産能力が見通しどおりに成長しなかった場合には、2つの最悪のシナリオが考えられると警告。1つは、EUが2035年以降も内燃機関搭載車の禁止を延期せざるを得なくなること。もう1つは、2035年までにゼロエミッションを達成するために、欧州の自動車産業と労働力を犠牲にし、域外のバッテリーやEVに大きく依存せざる得なくなることだとした。
(大中登紀子)
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