潜在需要は推定1日当たり900トン
NRIは独自の推計手法に基づき、新幹線物流における貨物需要量を算定した。その結果、1日当たり約900トン、大型トラック換算で約140台分の潜在輸送需要があると推定する。ただし、サプライチェーンの高度化に伴い日本全体の貨物輸送量が減少傾向にあるため、将来的な需要自体は徐々に減少していくと予測している。
輸送需要が特に多くなると見られるのが、東海道新幹線や山陽新幹線だ。大量輸送の実証実験の結果を踏まえ、1箱10kgの荷物を1車両当たり200箱積載可能であるとすると、1便当たり2車両程度の需要が見込まれる。その他の区間では、1便当たり1車両以下の需要になると考えられる。
NRIは積載量が200箱を超えない限りは、既存の車両を活用する場合の輸送方式としては、旅客車両の座席間に積載する「座席格納方式」が最適であるとした。座席利用率を鑑みると、1便当たり合計で1〜3車両分のスペースが供給可能だと見込まれる。同社はこれらを基に、貨物需要量と現行の車両供給量を比較すると、現行の車両供給量で潜在貨物需要を満たすことが可能だと試算する。
オペレーションの効率化などが課題に
一方で、新幹線物流を事業展開していく上での課題も見えてきている。発着時の荷役などのオペレーション面に加えて、駅や新幹線が輸送を前提とした設計になっていない点などが問題点として挙げられる。
具体的に見ていくと、まず発着時の荷役における課題としては、駅発着時の荷役作業で輸送台車に積み替えする際の手間が発生する点、旅客優先通路を搬送するため混雑時に作業待ちが発生する点などがある。新幹線での輸送時の課題としては、新幹線の車内スペースは旅客向けに設計されており貨物向けに最適化されていない点、振動や温度の制御に加えてトラッキング手法が未確立である点などがある。また現状の新幹線物流は駅間の輸送にとどまり、荷送人と荷受人をEnd to Endで結ぶ一貫輸送のサービスとしては設計されていない点も課題だ。
NRIは各課題に対する解決策も提案した。荷役オペレーションを効率化する上では、専用機材の導入や旅客の導線の分離、工程の分業化などを挙げる。荷下ろしからホームへの搬送を担う専用の台車開発や、物流導線の新設、新幹線輸送時の荷物の揺れを抑える輸送機材の開発、搬送や積み込み工程での人員分担などが解決策として挙げられる。投資コストはかかるが、時間のロスを削減する効果が期待できる。
新幹線の車内スペースの最適化については、旅客と需要変動に応じて貨物のスペースを最適に配分するシステムの導入などを解決策として挙げる。医薬品や医療機器、生鮮食品などの輸送時を想定して、保冷ボックスや充電式のコンテナなどの導入も提案する。
一貫輸送の実現については、荷主から輸送依頼を受けた鉄道会社と物流事業者のいずれかが主体となり、ファースト/ラストワンマイルや新幹線輸送の手配を行う枠組みが必要になると提示した。
新幹線物流が事業拡大することで、農水産物の即日配送が可能なエリアが広がり新規市場にアプローチしやすくなる他、航空機と複合した輸送手段を構築することで農水産物の輸出拡大にもつながり得る。JR九州では、鹿児島県産の水産物を九州新幹線と福岡空港経由で国外に輸出するトライアルを2023年度に実施している。
この他、当日配送が必要な小口輸送などにも対応しやすい。輸配送拠点の効率化の流れが生まれる可能性もある。一般的な鉄道のCO2排出量を、自動車による排出よりも削減できる点も大きなメリットだ。
NRIグループマネジャーの小林一幸氏は「国内だけでなく輸出における新たな販路の改革や、サプライチェーンの効率化、物流の持続性効果にも効果がある。ぜひ、新幹線物流の拡大に期待していきたい」と語った。
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