緊急事態宣言が出される前から外出自粛要請によって繁華街などの人通りは途絶えた。写真は3月29日、東京・秋葉原。
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新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受け、大きな打撃を受けている業界の一つが観光業だ。インバウンドはもちろん、3月以降は国内旅行も自粛ムードで、4月に宣言以降は移動そのものにも自粛が求められている。
観光産業は収入がほぼなくなる一方で、家賃や人件費などのコストはかかり続けている。
テイクアウトを始める飲食店やライブ配信をにチャレンジする音楽業界などとは異なり、ホテルという立地・体験に価値を置く産業が今できることは、限りなくゼロに等しい。4月にはホテル大手のファーストキャビンの破産手続き開始が発表され、いよいよホテル業界にもコロナショックによる倒産の波が押し寄せてきたと、実感している。
通常営業時の「HOTEL SHE, OSAKA」の様子。現在は「ホテルシェルター」として稼働中。
提供:HOTEL SHE, OSAKA
私は「HOTEL SHE, OSAKA」など全国に5つのホテルを運営するL&> Global Businessというホテルベンチャーの企画などをお手伝いしている。
私たちの会社も当然、新型コロナウイルスによる影響を受けている。緊急事態宣言が出される少し前の4月5日から全ホテルの休業を決定。当初予定していた4月25日までの休業は、一部を除いて5月29日まで延長した(5月12日現在)。
だがその間、黙っていても潰れるだけだという思いで、オンライン、オフラインを交えた新事業の開発に奔走してきた。まだ光明が見えているわけではないが、一切の宿泊収入がなくなった私たちが、何を考え、この1カ月をどのように過ごしてきたのかをお伝えしたい。
軽症者用ホテルの条件に合わず参加断念
前述の通り、今ホテルにできることは限られている。
一応宣言下でも、集会スペースなどを除いたホテルの宿泊機能自体は「社会生活を維持する上で必要」なものとして、自粛要請を出されているわけではない。
とはいえ、当然「旅行に来てほしい」と声高にアピールできるわけでもなく、事業者としては粛々と営業を続けるか、きっぱり休業を選択するかのどちらかだ。生き残りをかけて水面下で足を掻き続けるか、スタッフやゲストの安全を取るか、というギリギリの判断を迫られる。
東京都の軽症者受け入れホテルの一つ。受け入れホテルになるには、キャパシティなど一定の条件がある。
撮影:今村拓馬
いち早く動いたのはアパホテルだった。
4月上旬、政府から新型コロナウイルスの軽症者受け入れの打診を受け、複数のホテルを軽症者向けに提供すると発表。スーパーホテルなどの大手もこれに続き、病院の病床のパンクを防ぐためにも軽症者はホテル療養という政府の方針に、ホテル事業者が次々と名乗りを上げた。
しかし、どんなホテルでも手を挙げられるわけではない。
われわれもすぐに大阪府の公募に応じたが、「1棟単位(100室以上)で協力できること」という条件に合わず、参加はかなわなかった。
大阪府は5月8日時点で98事業者から202施設、約2万1000室分の応募があったと発表しているが、このうち約半数の109施設は1棟100室未満の事業者だったということで、われわれ同様に動きたくても何もできないホテルは多いと感じた。
料金先払いに200のホテルが参加
「#安心な世界で旅に出ようぜ」を合言葉に、オンライン上の自社メディアに“ホテルを移動する”というPRを施策した。
提供:L&> Global Business
そんなわけで、4月上旬はリアルな空間活用を一旦あきらめ、ベクトルの異なる施策にチャレンジした。
まず手がけたのは、「#安心な世界で旅に出ようぜ」を合言葉に、オンライン上の自社メディアに“ホテルを移動する”というPR施策。アカウントのフォロワーも1万を越すなど、大きな話題になった。
「ホテルがお家に出向く」というコンセプトで、ホテルの世界観に触れられる商品販売やコンテンツ発信をしたり、ホテルで実施予定だったいくつかのイベントをオンラインに切り替え実施したりした。
自社で開発を続けてきた「CHILLNN(チルン)」というホテル予約システムを応用して「未来に泊まれる宿泊券」というサービスも作った。
他業界でも同様の動きがみられるが、宿泊料金を先払いすることで、ホテルの存続を応援するというものだ。初期コスト無料、手数料率も極限まで下げて、あらゆるホテルが活用してもらえるような仕組みを休業から数日で立ち上げて、発表できた。主に小規模ながらも独自の世界観を持つ全国のホテルが賛同してくださり、申し込みホテル数も200に迫る。
自宅にいられない人とホテルをつなぐ
一方で、代表の龍崎翔子が、緊急事態宣言発動当初から懸念していたことがあった。
「STAY HOME」という合言葉が全員にとってハッピーなのかということだ。家庭内でトラブルを抱えていたり、高齢者と同居している家族にとっては、自宅に居続けることは物理的・精神的なリスクになる可能性がある。
実際、家庭内感染の増加が指摘される一方、在宅のストレスからか世界中で「コロナDV」や「コロナ虐待」が増えているという報道もあった。さらにインターネットカフェの閉鎖によって居場所を失う“ネカフェ難民”も問題になっていた。
「ホテルシェルター」プロジェクトのメインビジュアル。少しでも明るいイメージを訴求できるように製作した。
提供:L&> Global Business
「自宅にいることがストレスになる方々にホテルを貸し出せないか」。そんな思いから「ホテルシェルター」というプロジェクトが生まれた。
自社のホテルだけではなく、「ホテルシェルター」というブランド名で全国のホテルと連携し、自宅近くにあるホテルをシェルターにできないだろうか。稼働率が低くなっているホテルと、自宅にいることに問題がある人たちを低価格でマッチングするというアイデアだった。
「なけなしの勇気をかけてやりたい」
ただ、このプロジェクトにはこれまでとは明らかに異なるプレッシャーがあった。
ホテルで感染が拡大したら、取り返しがつかない。本当にやるべきか否か、発表前まで社内では相当の議論を重ねた。最後は「なけなしの勇気をかけてやりたい」という龍崎の決断を全員が信頼することにした。
黙っていては助かる人すら助からないし、「ホテルシェルター」はL&>が提唱する「世の中に新しい選択肢を提示する」という理念にもぴったりだ。
そこからは急ピッチだった。わずか10日ほどで「ホテルシェルター」の骨子を整え、公式サイトを立ち上げて、4月15日には利用を希望する一般ゲストと、受け入れを希望するホテルの仮登録を開始した。
ホテルシェルターを利用したい理由の上位には、「家族への感染が心配」「家庭内のトラブル」などが並ぶ。
L&> Global Business 調べ
ありがたいことに発表の反響は凄まじいものだった。
メディアの取材だけでなく、SNS上でも相当数の反響をいただいた。4月に利用を希望する500人近い個人ゲストや複数の法人企業や医療関係者、さらに提携を希望する全国150以上のホテルからも一気に連絡が入った。
利用したい理由について利用希望者に聞くと、「家族に感染させないか心配」という声がもっとも多く、全体の3分の1。次いで5人に1人が「家庭内にトラブルを抱えている」という理由だった。
滞在中にはオンライン診療も受けられる
安全な運営が保証できなければ「STAY HOTELしよう」とは言えない。そこで、「ホテルシェルター」の核になるであろう「ウィズコロナ時代の安全な運営ガイドライン」も作った。
行政が提案している軽症者向け施設のための運営指針があるのだが、淡々と気をつけるべき点が書かれてあるだけで、ホテルのオペレーションにどう落とし込むのかがわかりづらい。発表後の1週間で国内外の新型コロナウイルス対策に関する資料をかき集め、ホテルが運営に落とし込みやすいフォーマットを作った。
「HOTEL SHE, OSAKA」での「ホテルシェルター」の様子。無人チェックインができるシステムになっている。
提供:L&> Global Business
感染症専門医でKARADA内科クリニック院長の佐藤昭裕先生にガイドラインの監修をお願いし、その後も医療観点でアドバイスしてもらっている。滞在中のゲストがオンライン診療を受けられる動線も準備した。
安全なホテル運営のフローが確立できれば、今後の応用範囲は広い。同様に低価格でホテルを貸し出すサービスを独自で始めているホテルも多いが、われわれが作ったガイドラインをこうしたホテルに対しても共有できるかもしれない。今はデザインを加えて、直感的にオペレーションに落とし込みやすいガイドラインの作成に着手をしている。
「家にいるストレスから逃れられる」
5月1日、自社で運営する「HOTEL SHE, OSAKA」で、「ホテルシェルター」としてのゲストの受け入れを開始した。まだまだ利用者が多いわけではないが、実際に宿泊をした人からは以下のような声をいただいている。
「入室から退室まで誰にも接触することがないようにさまざまな工夫がなされていた。部屋番号は事前にメールでお知らせされ、到着の頃にはルームのセットがなされている。ゴミが出た時は、専用の袋に詰めて部屋の前においておけば撤収してくれる。徹底したコロナ対策とホスピタリティで、自室にこもる生活の気分転換になった」(20代・男性)
「家庭内に不和があり、1人で過ごす時間が欲しくて『ホテルシェルター』を利用した。完全非対面での接客やホテル内の換気などの徹底した感染予防策の下、感染リスクを気にすることなく、家にいることのストレスから逃れられる、『シェルター』と呼ぶにふさわしい場所だと感じた」(20代・女性)
並行して、あらゆるホテルが利用できるような専用の予約システムの構築も進めている。支援したいという声も多くいただいたため、寄付のプラットフォームも開発・ローンチをした。資金は今後の事業運営に当てる他、一部はホテルを利用したくても金銭的問題でそれが叶わない方々の宿泊費にも活用できないかを模索している。
大阪出身のアーティストSIRUPもプロジェクトに共感してくれた。
提供:L&> Global Business
この事業に共感してくれたミュージシャンのSIRUPが、自身のコラボアパレルアイテムの一部収益を寄付してくれ、「ホテルシェルター」専用のプレイリストまで製作をしてくれた。こうしたコンテンツは今後も増やしていきたいし、幅広い層に届くようにと、NPOや行政との連携も検討・打診中だ。
「動かなければ次の一手は見えてこない」
ここまで1カ月でいくつかのアイデアの実現に奔走してきた話を書いたが、実際にはまだ何も始まっていないに等しい。
これから先のビジネスに関してはまだ未知な部分が多い。特に「ホテルシェルター」については、世の中に絶対に必要なサービスであることは確信しているが、医療現場が逼迫する中で、その足手まといになるようなことは絶対にできないと、皆が気を引き締めている。だからこそ、対面を避けることや清掃オペレーションなど、可能な限りのマニュアル化を図ってきた。
一方で、休業中で従業員の多くが休みをとっているこのタイミングに、これだけのスピード感で新事業に挑戦できたことには、我ながら驚いている。動かなければ次の手は見えてこないし、協力を申し出てくれる周りの人たちともつながることはできなかっただろう。
そして、この事業は単なる「コロナ対策」に止まらないものだという確信が強まってきた。
「ホテルシェルター」という事業自体は感染が収束すれば、必要なくなる事業かもしれないが、その先にある未来は今とは大きく変わっているはず。そんな時代に通用する生活のあり方やビジネスの形はきっとこの延長にあると信じている。
5月末に自粛が解除されれば、少なからず人々は動きはじめ、経済は回り出すだろう。しかし、すぐに元通りとはいかないし、最も恐れるのは冬に来ると言われるウイルスの第二波によってさらなる苦境が観光業界に訪れることだ(それはほとんど避けられないような気がしている)。
1カ月先の市場すらまともに見えないこの時期に、私たちが今作るべきは「コロナに対応する事業」ではなくて、「次の時代のスタンダード」だということをこの1カ月で痛感している。今こそ不透明な未来をクリアにするべく、全速力で挑戦するべき時ではないだろうか。
(文・角田貴広)
角田貴広:編集者・ライター。1991年、大阪府生まれ。東京大学医学部健康総合科学科卒業、同大学院医学部医学系研究科中退。ファッション業界紙「WWDジャパン」でのウェブメディア運営やプランニング、編集・記者を経て、フリーランスに。メディアでの執筆をはじめ、ホテルベンチャーの企画・戦略、IT企業のオウンドメディア運営、プロダクト企画など、メディア以外の広義の編集に関わる。
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May 14, 2020 at 03:00AM
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