<相談> 日本舞踊の小道具の貸出業を祖父の代からやっています。2代目の父は11年前に、事業を継いだ従兄(いとこ)は6年前に亡くなりました。その3年後に母も他界し、今では私が1人で切り盛りしています。
従兄が亡くなった時、母と廃業も考えましたが、舞踊の会も結構あり、小道具組合にも助けられて仕事を続けてきました。コロナ禍で経営は苦しいのですが、踊りの先生方に支えられて持ちこたえてきました。
しかし、息子や娘は後を継ぎません。廃業するとなると、倉庫にあるたくさんの小道具を処分する必要があり気が遠くなります。気力や体力のあるうちに廃業するか、需要のある限り続けるか悩んでいます。 (63歳女性、自営業、東京都)
◆これからは自己実現 助けを借りて
<回答者 池口武志さん> 日本伝統芸術の神髄とも言われる日本舞踊の小道具事業を、ご祖父の時代からご家族で、長年にわたって支えてこられた歴史的事実に深く敬意を表します。当事者でなければ理解も、感じることもできないであろう「重み」に圧倒される思いです。
私の実家は、京都で小さな西陣織屋を営んでいます。幼少期から着物や帯地に囲まれて成長してきましたが、自分は継ぐこともなく、20年ほど前に末弟が脱サラして継いでくれ、家族一同安堵(あんど)したことを覚えています。ただ、立派な後継者となった末弟も、和装離れが進む中、後継問題を含めて将来の構想は描きにくいようです。兄としては「弟自身の思い」を見守るばかりです。
イギリスの歴史人口学者のピーター・ラスレットは、人生を、第1段階「社会に出るまで」、第2段階「責任と所得の時代」、第3段階「個人的な実現と達成の時期」、第4段階「衰えから終末まで」の四つに分けました。寿命が延びていく中で、ラスレットはそのうちの第3段階を「人生最高のとき」と表現し、第3段階を生きる恩恵を認識し、自らの意識と行動で自己実現を図る重要性を指摘しました。
あなたは、既に第2段階では十二分に貢献されてきたと想像します。これからは緩やかに第3段階も意識しながら、実現したいこと、達成したいことは何なのか、焦らずじっくりと考えてみてください。
これまでも踊りの先生方や小道具組合の方々にも助けられてきたあなたです。きっと周囲が、気持ちを理解して力を貸してくれるでしょう。(定年後研究所監修)
1963年、京都府生まれ。同志社大卒。生命保険会社勤務などを経て、2021年4月から一般社団法人定年後研究所所長。
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「70歳現役時代」を迎え、定年後の働き方や転職、移住、社会貢献など、ミドル・シニアの疑問や悩みを募集します。人生の転機に転職や起業を経験した6人が交代で答えます。
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