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需要平準化にどう挑むか 社会全体の環境づくりに向けて - トラベルジャーナル

2022.11.28 00:00

(C)iStock.com/aimagami

生産性の低さが指摘される観光産業において、長年の課題に挙げられるのが需要の平準化だ。コロナ禍前にはインバウンド増加による内際の平準化も見られたが、日本人の旅行需要の平準化は大きく進んでいないのが実態。コロナにより社会全体の意識が変わるなかでは、需要の平準化について考える好機かもしれない。

 「平準化」という言葉は用いられる文脈によって異なる意味を帯びる。労務管理では従業員の業務負担を平準化する意味合いで用いられ、製造業では一定の品目を常に一定の量生産することでムダを抑える「平準化生産」の文脈で用いられる。そして、観光における平準化は、月別や曜日別などの時間軸で見た需要変動の抑制を指すことが専らだ。月別構成比でいえば、年間を100%としてこれを12月で割った平均値8.3%が毎月続くことが平準化の理想となる(月別構成比の分散およびその平方根である標準偏差がゼロである状態)。

 本稿では宿泊旅行市場について観光統計等を基に平準化の動向とその推進に向けた施策の大まかな方向性について述べたい。最初に宿泊旅行市場における平準化の中期的動向を概観してみよう。

 図1は観光庁の宿泊旅行統計から、延べ宿泊者数の月別構成比の標準偏差を求めて、その中期的推移を見たものだ。青い折れ線は外国人客を含む全宿泊客の標準偏差、緑の折れ線は日本人客の標準偏差である。縦棒はそれらの差分(外国人客による標準偏差の改善)を示す。そして19年までは日本人だけに比べ全宿泊客の方がばらつきの尺度である標準偏差が小さく、訪日市場拡大とともに少しずつ平準化が進んだことがわかる。

 なぜ平準化効果が生じるかというと、外国人客の旅行時期の分布が日本人とずれており、全体の波動を穏やかにしている。19年で見ると日本人のオフシーズンを含む1月、2月、4月、6月などで月別構成比が日本人より高めになり、逆に日本人のピークである8月の構成比が低めになる。

 日本人客のみで見た標準偏差自体も縮小傾向がみられる。要因はデータの制約もあり解明できない点が多い。各種資料を見る限り、オフを埋める高齢者旅行のシェアは伸び悩んでおり、夏季に集中する家族旅行も減っていない。そうしたなかで大きな要因と考えられるのは有給休暇を用いたオフシーズン旅行の増加だ。実際、厚生労働省の就労条件総合調査によれば、年次有給休暇の取得率は12年の47.1%(男性44.2%、女性53.4%)から、19年には56.3%(男性53.7%、女性60.7%)まで上昇している。

 コロナ禍以降の短期的な平準化の動向は、20年初頭のコロナ禍により宿泊者数が激減した後、緊急事態宣言発出やGoToトラベルキャンペーンなどの政策が市場に大きな変動をもたらし、標準偏差は大きくなっている。なお、20年は外国人客が1月と2月に集中し、外国人客を含めた方が標準偏差は3.36と日本人客だけより0.35大きくなる。21年に入ると訪日市場がほぼ消滅したことから全体への影響も失われている。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年11月28日号で】

塩谷英生●國學院大學観光まちづくり学部教授。専門は観光経済、旅行市場等。民間コンサルタントとして「旅行・観光消費動向調査」「訪日外国人消費動向調査」(観光庁)等の企画・実査に携わった後、22年4月から現職。博士(観光科学)。

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