今後の成長に期待が膨らむネオジェネレーションなスタートアップをエンジニアtype編集部がピックアップ。各社が手掛ける事業の「発想」「技術」「チーム」にフォーカスし、サービスグロースのヒントを学ぶ!
「移動で人を幸せに。」をミッションに掲げ、タクシーアプリ『GO』をはじめとした日本のモビリティ産業をアップデートする取り組みを展開する株式会社Mobility Technologies(以下、MoT)。
全国のタクシーの半数にあたる約10万台の車両をネットワークするMoTが提供する『GO』は、一台一台に搭載したGPSでリアルタイムに位置情報を収集。高度な配車ロジックで「早く乗れる」体験を提供し、No.1*タクシーアプリに成長している。
また、『GO』の運営によって収集したビッグデータを活用し、新しいモビリティサービスの展開や、交通の最適化に関するプロジェクトの社会実装にも着手。
すでに時価総額1200億円を超え、日本発のユニコーン企業として今後の成長に期待が寄せられている。
そんなMoTが今、新たにチャレンジしているのがタクシーのGX(グリーントランスフォーメーション)・タクシー乗務員の人材獲得・相乗りの三つの次世代事業だ。
「“移動”を取り巻くあらゆる社会課題はもはや一社だけの力では解決できない。令和を代表するようなサービスをMoTが起点となり開発していきたい」と語るのは代表取締役社長の中島宏さん。
モビリティの「当たり前」を変える新たなサービスをどのように発想し、今後カタチにしていくのか、中島さんと同社取締役開発本部長の惠良(えら)和隆さんの二人に話を聞いた。
*data.ai調べ|タクシー配車関連アプリにおける日本国内ダウンロード数(iOS/Google Play合算値) 調査期間:2020年10月1日〜2022年12月31日
エコシステム全体がWin-Winになる仕組みを考える
——MoTでは現在、次世代事業としてGX、人材獲得、相乗りの三つに注力していると伺っています。まず、GXにおいては、昨年末、全国約100社のタクシー事業者や各種パートナー企業と連携し、27年までに年間CO2排出量3万トンの削減を目指すことを発表されましたよね。その効果をどのように見込んでいますか?
MoTが取り組む「タクシー産業GXプロジェクト」は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業「スマートモビリティ社会の構築」に採択されており、その助成金を含めて最大280億円規模の取り組みとなる予定だ
中島:日本では50年までにカーボンニュートラルの実現を目指していますが、国内の二酸化炭素排出量のうち17.7%は運輸部門が占めている*と言われています。
この運輸部門の数字には自家用車やバスも含まれますが、タクシー業界を牽引するMoTが脱炭素化に向けて乗り出せば、日本の運輸領域全体が脱炭素化に向かうきっかけにもなるはずです。
そこで、『GO』加盟事業者を対象にEVや充電器などを当社から提供すること、そのために必要なシステムの研究開発を進めることを決めました。
*国土交通省の『運輸部門における二酸化炭素排出量』より(参照元)
——それは、かなり大きな投資ですね。
中島:はい。ただ、ガソリン車をEVへ入れ替えればGXが完了するのかというと、そう単純な話ではありません。
例えば、EVはガソリン車と違って充電に時間がかかり、車の稼働率が下がってしまいます。
これは事業者にとってはもちろん、乗務員にとっても死活問題。多くの乗務員は歩合制で働いており、稼働率の低下は給与減に直結するからです。
また、仮に充電時間の問題がクリアできたとしても、次に立ちはだかるのは充電設備にかかる負荷です。
現在のタクシー事業者は、100台以上もの車が一斉に事業所に戻ってきてメンテナンスを行うようなオペレーションで動いています。彼らが同時に充電しようとすれば、インフラは容易にパンクしてしまう。
そこで、関係各所と連携し、発電・送電のタイミングや運行オペレーションと充放電の最適化ができるように調整するなど、複雑な課題を乗り越えた先に全車両のEV化が成し遂げられると考えています。
——どんな技術で解決しようと考えているのですか?
惠良:『GO』のデータ基盤を生かしながら、運行効率を損なわず充電計画を生成できるAIシステムの開発と検証を、31年までに実施する予定です。
例えば、『GO』を導入している車両には必ず乗務員端末がついているので、それを介して、運行距離や乗務実態を把握しながら、タクシー毎に充電のタイミングを適宜知らせることができれば、大量の車両が一斉に充電するような事態が避けられるはず。
自分たちのアセットをどう当てはめれば、エコシステム全体のWin-Winにつながるのかを考えることが、新規ビジネスを成功させ「新しい当たり前」をつくるための必須条件だと思います。
新たな事業の種は、「現場の課題」の中にある
——2つ目の柱である乗務員の人材獲得についてはどのような発想からスタートしたのですか?
中島:人材獲得の取り組みについては、まさに現場のタクシー事業者さんからお話を伺ったところから構想がスタートしています。
いま、「タクシー業を営むにあたり、何に困っていますか?」と事業者さんに聞くと、100人中100人の経営者が「人手不足」と答えるのが現状です。その上、現役の乗務員さんは高齢の方が多く、このままでは業界が立ち行かなくなると言われています。
しかも、乗務員さんの労働は過酷で、「20時間稼働したあと、丸一日休む」ような勤務形態が一般的。この現状がネックで、特に若い方の参入がなかなか増えないそうです。
ここを解決するためには、一日に6時間など、短い時間からでも稼働できる体制を整えなければなりません。なおかつ、その地域の道に詳しくない方でも安心して乗務に挑戦できるような状況を仕組みで解決する必要があります。
——いわゆるパート形態でも働けるような仕組みづくりですね。
惠良:そうです。実際、3月から、都内のタクシー事業者と協業して、時給制でコアタイム6時間、週3日程度稼働するパート形態の乗務員さんが、『GO』からの送客のみで営業を行う実証もスタートします。
そして、ここでも活躍するのが私たちが培ってきたデータ基盤です。
短時間の稼働を実現するには、需要を予測してシフトを組み、なおかつ空いているシフトがどこなのかを分かりやすく提示する必要がありますが、MoTならそれが可能です。
ルートについても同様。『GO』ではユーザーからの注文時にあらかじめ乗車地・目的地の両方が設定されているものが一定数存在しますので、そういった注文のみをアサインすることで、口頭で目的地を伝える従来のスタイルよりも経験の浅い乗務員さんのハードルが下がります。
さらにはこの特徴を活かし、経験の浅い乗務員さんにショートライド(短距離利用)を優先的にアサインするなどの工夫も可能です。
この人材獲得の取り組みはまだまだテスト段階ですが、課題解決に向けてMoTが貢献できる余地は大きいと考えています。
「相乗り文化」を根付かせるため、確実に需要がある場所からユーザーの成功体験をつくる
中島:「相乗り」事業のコンセプトは、「バスとタクシーの隙間を埋める」サービスにしたいというもの。
日本だと、タクシーってちょっとぜいたくな乗り物なんですよね。一人で車両を占領することになる分、どうしても移動の価格は高くなる。それに見合った高品質なサービスを受けられるのは大きな利点ですが、常に高価格・フルサービスを受けたい人ばかりではないはずです。
じゃあ、次のチョイスはというと、一足飛びにバスや鉄道になってしまう。この「隙間」を埋めたいんです。
ただ、単純にタクシーの価格を下げれば良いのかというと、そうはいきません。仮にタクシーの価格が10分の1になったら、利用者が増えてあちこちで大渋滞を起こしてしまい、かえって不便になる可能性もあります。
そこで私たちは「相乗り」をもっと当たり前の選択肢にできないかと考えました。
1台のタクシーに複数人が乗り合わせて移動すれば、交通分担率(交通手段ごとの利用者割合)を大きく崩すことなく利便性を高められます。
海外だと、相乗り事業をすでに実現しており、移動における新たな選択肢になっています。
——欧米ではすでに相乗りサービスが浸透しているということですが、日本で課題になりそうなことはありますか?
中島:まずは、ユーザーがアプリを使用したときに、確実に相乗り(マッチング)が成立する状況を生み出すことが必要です。
「せっかくアプリを開いたのに全然マッチしなかった」と失望感を与えてしまうと、そのユーザーは二度とサービスを使ってくれなくなってしまうリスクがあります。
また、相乗り前提で通常より安い料金設定をしたのに、結局乗る人が1人だと、タクシー事業者が割を食う状態になり、事業も継続できません。
なので、まだ構想段階ですが、MoTではまず空港への送迎や主要施設(ショッピングモールやターミナル駅等)等への恒常的なニーズがある場所からサービス導入を始めようと考えています。
確実に需要が見込まれるシーンを見極め、「相乗りって便利」とユーザーに感じてもらうことが第一歩。その成功体験が徐々に浸透し、市場が温まっていくはずです。
——相乗りのマッチング精度を上げるにあたって、技術的な課題はどこにあるのでしょうか。
惠良:目下、開発で試行錯誤しているのは、マッチングのウィンドウ(待ち時間)をどのくらいに設定するかという問題です。
例えば、行き先がマッチングするまでに、ウィンドウが長ければ長いほどマッチングする確率は上がります。極端な話、「1時間待ってもOK」という人ばかりであれば、オーバーラップする(重なる)ルートを探し、相乗りを成立させることはそう難しくないでしょう。
でも、これが10分以下となると技術的にもUX的にも高度な設計が求められます。
マッチングが成立するまでの間、“ただくるくる回るだけのUI”に、「あと何分待てばマッチングの可能性90%」と表示するとどうでしょう。不思議と待てる気がしませんか?
幸い、MoTにはタクシーアプリ『GO』で蓄積してきた大量のデータ(運行実績など)と、それに基づいたAI需要予測システム*があります。
これらのビッグデータを活用することで、空港で乗る人は何時台に何人くらいいるか、そのうち新宿方面へ向かう人は何人いるかといった情報の把握も可能なので、これらの細かいマッチングアルゴリズムを調整し、効率的なマッチングシステムの実現に取り組んでいます。
また、ウィンドウの設計だけでなく、日本人の特性に合わせた仕様をどこまでシステムに反映できるかも普及の鍵です。
——日本人の特性ですか?
惠良:はい。日本人の特性的に、見ず知らずの人と相乗りする際、「自分はどの席に座ったらいいか」と配慮したり、相手に失礼がないかと気遣ったりする人は多いですよね。
なので、乗車時のルールを何も設けていない状態だと、相乗りする際に「どうしたらいいか」考えることが多くて、結果的にユーザー体験が悪くなってしまいます。
そこで、社内でアイデアを募ったところ、「アプリで座席位置まで指定できる方がよいのではないか」という意見が出てきました。
サービスを使ったときに、迷わせない、気まずい思いをさせない。それらの配慮が、「次も使おう」というモチベーションに影響を与えるはずなので、そういった心理的な観点をもなるべく最初からつぶせるように開発を進めています。
*タクシー運行実績や人口動態予測、タクシー需要への影響が大きい気象、公共交通機関の運行状況、大規模施設でのイベントなどのデータをAIに取り込み、需要の大小に応じた複数の学習モデルを適用している。
100年後の人々に感謝されるようなイノベーションを
——ここまで、GX、人材獲得、相乗りとMoTが今後注力する3つの柱についてお話を伺ってきました。どれも難易度が高い事業だと思いますが、それを支える開発組織づくりにおいてはどのような工夫をされていますか?
中島:月並みな答えになるかもしれませんが、やはり、エンジニア一人一人がオーナーシップを持って開発に取り組めるようなカルチャーをつくっていくことですね。
例えば、「自分はインフラの人間だから」とプロダクトに関心を持たない人ばかりでは、イノベーションを起こせません。
日々忙しい業務の中で広い視野を持ってもらうのはなかなか難しいことではありますが、オープンな議論の場をなるべく多く設けるなどしてエンジニアがアイデアをぶつけやすい環境をつくろうとしています。
惠良:実際、半年に1回のペースで約2週間、通常業務から離れて自分の挑戦したい開発あるいは技術習得に取り組んでもらう「Engineer Challenge Week」があります。
頭に思い描いてはいるけれど、日頃なかなか実行できないチャレンジに集中して取り組み、プロダクトにフィードバックする時間を物理的に設け、エンジニアの好奇心や達成感を刺激する取り組みとして機能しています。
また、「トライアルタクシー制度」では月に1万円までタクシー代を支給しており、仕事でもプライベートでも、用途を問わずタクシーを利用することができます。いちユーザーとしてタクシーを利用することで、自社サービスの課題改善に生かしてもらう狙いです。
中島:私たちMoTは、令和を象徴するような社会課題を解決していきたいと考えています。
昭和の時代は、大量輸送の手段である鉄道を発達させることで「日本をもっと豊かにしたい」という課題を解決しました。
対する令和はというと、生き方の多様性や、サステナブルな社会システムの構築などが代表的な課題になることが多い。そんな時代に、自社の利益だけを考えていては、長期的なプロダクトの成長は見込めません。
「移動」を取り巻くすべての関係プレイヤーと協力し、あらゆる社会課題を解決していきたい。その起点にMoTが立ち、「あの時、あの会社が頑張ってくれたからこんなに良い世の中になったんだね」と100年後の人たちが言ってくれるような功績を残すことが、私たちが実現したい夢ですね。
文/夏野かおる 撮影/桑原美樹 編集/玉城智子(編集部)
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