[ロンドン 13日 ロイター] - エーザイと米バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病治療薬は、症状の進行を遅らせる効果があることが確認されている。しかし欧州の専門家は、副作用や医療資源への追加コストをしのぐほどのメリットが果たしてあるのかどうか疑問を投げかけている。
レカネマブは米国で既に迅速承認されて「レケンビ」の名称で販売が始まっており、7月には正式承認が得られる公算が大きい。早期のアルツハイマー病患者を対象にした臨床試験で、症状悪化を27%抑制したことが示されたためだ。
これに対し、新薬使用承認までにコスト意識の高い各国が厳格な検証を行う傾向がある欧州では、6カ国にまたがる9人の神経科医と研究者がロイターに、承認されても幅広く使用されそうにないとの見方を示した。これはレカネマブにとって欧州は小さな市場にとどまるというアナリストの試算を裏付けることになる。
複数の医師は、脳の腫れを引き起こすというレカネマブのリスクや、価格が高く設定されそうなこと、毎月2回の薬剤注入やMRIで脳の腫れをチェックするためにかかる人手や資源を踏まえると、臨床試験の効果は十分な意味を持たないかもしれないと述べた。
レカネマブは、脳内からアルツハイマー病の特徴の1つとされるアミロイドベータというタンパク質の粘り気のある塊を除去することで効果を発揮するが、臨床試験では投与患者の13%近くが、重篤な脳の腫れが起こり得る状況を経験した。
イタリアのサンタマリア大学病院で神経科を統括するカルロ・コロシモ氏は、一部の患者からは既にレカネマブについて問い合わせを受けているとしながらも「われわれは全体的な構図を考えなければならない。イタリアの専門家の間では、そこまでして使う価値はないとの見方が多数派だと言える」と話す。
欧州では現在アルツハイマー病患者は推定で700万人に上り、2030年までにはさらに倍増すると見込まれている。
それでもコロシモ氏は、レカネマブが患者にとって臨床的にそれなりの意義があるかどうかは疑わしいと述べた。確かにこれらの臨床試験結果は統計上有意だったが、欧州医薬品局(EMA)が承認申請を却下しても驚きはないという。
コロシモ氏は、神経科の治療分野で定期的にEMAに助言を行っている10人の外部諮問委員の1人だ。
EMAは年内、あるいは来年初めにはレカネマブを承認するかどうか判断を示す見通し。審査過程に関するコメントは拒否した。
エーザイの広報担当者は、早期アルツハイマー病の新しい治療法採用に際しては医療システムに相当な課題があると認識しているが、それは克服可能と自信を表明した。
<過大な期待>
アナリストはEMAがレカネマブを承認し、来年には欧州で使用されるようになるものの、売上高の大半を占めるのはやはり米国になると予想している。
バークレイズのアナリストチームの想定では、欧州におけるレカネマブ販売は次第に拡大し、2032年に患者の約13%に浸透してピークに達する。ただその年に見込まれる売上高は26億ドルと、米国の37億ドルに届かない。
研究者らが気がかりなのは、さまざまなメディアでレカネマブの臨床試験での効果が報じられたため、患者が「万能薬」と信じてしまっている点だ。
認知症の診断と治療に関するドイツの国家指針策定を主導しているフランク・イエッセン教授は「期待が大きくなり過ぎようとしている。レカネマブの効果は進行を遅らせるだけだ。患者にそれを理解してもらうのは簡単ではない」と打ち明けた。
年間約900人の患者を診察しているジュネーブのクリニックでディレクターを務めるジョバンニ・フリソニ教授は、レカネマブの実際の効果は患者らを落胆させる公算が大きいと心配している。
「30年間この分野で仕事をしてきた臨床医としては初めての(効果のある)薬を目にしてうれしい悲鳴を上げている。しかし患者の立場なら『なるほど、でもそれだけですか』と言うだろう」と述べた。
<膨らむコスト>
現在のアルツハイマー病治療は、記憶力や認知機能の低下といった症状の「管理」に主眼が置かれている。
世界保健機関(WHO)の推計では、欧州におけるアルツハイマー病を含めた認知症治療コストは2019年時点で総額4390億ドル、患者1人当たりでは3万1144ドルだ。これは病院での治療や薬の費用、診断、非公式の介護時間、コミュニティーサービス、長期介護施設の費用などが含まれる。
レカネマブは米国での薬代が定価で年間2万6500ドルにもなり、欧州では大半の国が値下げ交渉をするとしても、使用が決まれば治療コストはさらに大きくなる。
脳せき髄液(CSF)分析のための腰椎穿刺(せんし)や、脳内のアミロイドを検出するための機器や人員も必要だ。
2019年のある試算によると、英国で10万件のCSF検査にかかる初年度の費用は、看護師に特別な訓練を受けさせる分を入れて6330万ポンド(7960万ドル)に達するという。
さらに薬剤投入専門の看護師や、脳の腫れをチェックするMRIの画像を検証する訓練を受けた人材も必要になる。
ところが既に欧州全域で医療資源は不足している、というのがWHOの分析だ。イタリアでは、各病院合計で2万9000人もの専門人材が足りないという調査結果もある。
オランダのラドバウド大学医療センターのエド・リチャード教授(神経学)はレカネマブについて「過大な負担を強いられている医療システムに(新たな)投資をすべき薬なのだろうか。それは現実的ではなく、試すべきでもないと思う」と主張した。
(Natalie Grover記者)
Bagikan Berita Ini
0 Response to "アングルエーザイ共同開発のアルツハイマー薬欧州で需要に懐疑 - ロイター (Reuters Japan)"
Post a Comment