ビデオゲーム分野は,世界で最も急速に発展している産業の一つであり,Newzooによると,その市場は2025年までに2050億ドルに達すると予想されている。エキサイティングな時代だが,技術的なスキルの不足という大きな課題も残っている。
広範なテクノロジーの生態系において,同様の経験を持つ従業員を追い求めているため,中小企業にとっても大企業にとっても,人材を確保して定着させることはますます困難になっている。
世界的な技術者不足
当然のことながら,ビデオゲーム業界における優秀な候補者の競争率は高い。この分野ではB2BとB2Cの両方が常に必要とされているので,従業員がキャリアで大成功を収めるチャンスは山ほどある。しかし,多くのハイテク分野との競争という観点で見た場合,採用は健全な挑戦というよりも,スタジオが取り組むべき重要な経営課題だといえる。
ロックダウン以降,技術者のニーズは急増しているが,適切な候補者のプールは,その需要にマッチしていない。開発,設計,実装をサポートする適切なスキルの必要性が高まってきており,イギリス,アメリカ,EU全域において需要が供給を上回っている。
イギリス商工会議所の報告によると,およそ3社に2社が人材の採用を希望しており,そのうち10社に8社が熟練度を問わず労働者を見つけるのが難しいと回答しているので,経験豊富な技術者と新規参入者の両方に高い需要があることが分かる。同様にアメリカでも連邦準備制度理事会の議長が,現在の労働力人口はパンデミック前の予測より350万人不足していると述べている。また,デジタル経済・社会指数によると,欧州で働く成人の40%が基本的なデジタルスキルの向上を必要としている。
そして,この傾向はゲーム業界に直接的な影響を与えている。多くの企業を悩ませているクランチ(修羅場)や劣悪な職場慣行の問題によって,ほかの業界はゲームのプロフェッショナルを,ゲーム以外の技術職に引き抜くことに目をつけた。その結果,潜在的な従業員のプールはさらに縮小する可能性がある。
強固な基盤を築く
この分野に人材不足をもたらす広範な要因が分かっているのにもかかわらず,開発会社がこれらの課題に対処し,健全な人材パイプラインを発展させる方法については疑問が残っている。最も効果的な解決策は,長期的ではあるが,より早い段階から教育とスキルに投資することである。
これには,技術やゲーム開発のキャリアを目指す人を増やすための取り組みを支援することが含まれる。開発会社は,学校や大学と協力して才能を育成し,将来のために確かな入門レベルの労働力を生み出すなど,現場レベルで関わることもできる。
採用の面では,この業界について広い視野を持つことが重要となる。例えば,ITやコーディングに関する伝統的な資格は,ほかの開発会社や,もっと一般的なハイテク企業から強く求められる。必要とされるスキルセットを見直し,さまざまな学歴を検討することで,より幅広い候補者の中から選ぶことができる。
スキルを与える
候補者がエントリーレベルであろうと,ベテランであろうと,トレーニングは従業員向けサービスの最前線に位置づけられなければならない。若手スタッフには,開発者環境での適切な作業から最新のソフトウェアの使い方まで,それぞれの役割の基礎を教えることで,強固な基盤が構築され,時間の経過とともに大きな責任を担えるようになる。
また,開発機会を追求するチャンスは,長期的な成功に対する会社のコミットメントを示すものなので,業界の経験者にとっても魅力的だ。
トレーニングは,その職務における核となる要素に頼らなくてもいい。メンタルヘルスとウェルビーイングを巡る問題に直面している分野では,セルフケアを奨励することを従業員に示すコースによって,業界の否定的な固定観念と闘うスタジオのコミットメントをアピールできる。
指導とサポート
前向きな文化とサポート環境を確立することは,学習と開発の機会を増やすことにつながる。経験豊富な開発者は,メンターシップの機会を提供して,若手開発者に知識やスキルを伝えられるので,オンボーディングプロセスの効率化が可能となる。同様に,開発者同士の共同作業は,知識やアイデアの共有につながり,最終的にゲームの質を高められる。
このようなアプローチによって,スタジオはチームが従業員の個人的な成長を促進するという考えのもと,経験の浅い開発者を安心して迎え入れることができる。
包括性の確保
しかし,技術的なスキルギャップを埋めるには,トレーニングや指導だけでは不十分であり,企業にはより多様な労働力を生み出すための努力が求められる。例えばイギリスでは,UKIEが2022年に実施したゲーム業界の国勢調査によると,労働者の大多数(66%)が白人のイギリス人だと回答している。
これが業界のグローバルスタンダードならば,あらゆる背景を持つ人々に向けて,より包括的なワークスペースを確立するための努力が必要なことは明らかだ。そうすれば,スタジオが包括性を支持していることをアピールできるだけでなく,マネージャーが自分と同じような人,あるいはスタジオの多数派と似たような人としか面接しないような「オールドボーイズクラブ」的アプローチを避けることができる。
また,より包括的で多様な労働力は,より多くの観客へと語りかけるゲームの制作に役立つ。
クオータ制がアイデアとして投げかけられることがあるが,それではスタジオに多様性を定着させることはできない。洞察によって導かれるアプローチによってこそ,スタジオがビジネスをより多様なものにする方法を確実に理解することができる。面接のタスクが無意識のうちに特定の層に偏りがちだったり,特定の人がほかの人よりも正しく回答しやすかったりといった事例が挙げられる。
職場での社交も考慮すべき要素の一つであり,誰もが飲酒や特定の活動に参加したいとは限らない。これらの要素を踏まえて,状況に応じて調整することで,より幅広い候補者を受容する,より包括的な環境を作ることができる。
部屋の中の象(タブー)を無視しない
とはいえ,給与は常に採用における重要な要素である。たとえ候補者にとって夢のような仕事であっても,給与や福利厚生が決断を左右することは起こりうる。当然のことながら,ゲーム業界は競争が激しく,魅力的な報酬パッケージを提供する企業には優秀な人材が集まりやすい。小規模なスタジオが給与面で柔軟に対応するのは困難だが,それでもスタッフが集まるような革新的な方法を考えることを止めるべきではない。
開発者がゲームの成功を分かち合う利益分配制度は,AAA級の給与に対抗できない小規模なスタジオを支援するための優れたオプションとなりうる。また,リモートワーク,プレミアムフライデー,福利厚生などのインセンティブは,従業員にとって魅力的であり,現在のライフスタイルに合った仕事の継続につながる。
業界のスキル不足を克服するための解決策は豊富にある。長期的な人材の育成は,将来の才能ある人材に向けた強力なパイプラインを構築できるが,スタジオは今ここで仕事をする従業員を必要としている。雇用される候補者の属性を広げ,成長,開発,サポートの文化を確立するための積極的な手段を講じることで,スタジオは熟練した労働者を迎え入れ,事業の継続性と変化を維持することができるはずだ。
Savvy Games StudiosのCEOであるYannick Theler氏は,Ubisoftにおいてヨーロッパ,中国,中東で19年間勤務してから入社した。Ubisoftでは,会社のあらゆる面をカバーし,10年前にアブダビスタジオを設立したことで知られる。
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