テレビやSNSで毎日のように目にする、転職情報サイトのCM。特に最近は40代、50代のミドルシニア向けの転職サービスも見かけるし、週プレのアンケートでも転職している40代、50代が少なくないもよう。でも実態はよく見えない!
ということで、転職のプロを直撃した! そうしたら、考えるべきは転職するしないとかじゃないかも!?
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■40代の4割が「願望はあるが、転職活動はしていない」
急激に進むDX(デジタルによる社会やビジネスの変革)やAI技術で雇用や産業の形が大きく変わろうとしているいま、「5年以内に消滅する職業は......」みたいな話もよく耳にするし、誰もが名前を知っている大手企業が「40代以上を対象に希望退職者を募集」といったニュースも珍しくない。
そうした中「このまま今の会社に居続けても大丈夫なのか?」「自分の今の待遇は適切なのか?」......と、モヤモヤした気持ちでいる人も多いのではないだろうか?
そこで週プレは、読者を対象に「転職」に関するアンケート調査を実施した。
すると、最も転職への意欲が高かったのはなんと40代! 特に顕著なのは「転職願望はあるが、転職活動はしていない」の39.3%。
さらに、「過去2年以内に転職した」人(10.4%)と、「転職活動中」の人(7.4%)を合わせると、半数を大きく超える57.1%がなんらかの形で転職願望を持っている(持っていた)ことになる。
ただし、これはあくまでも週プレの読者アンケートの結果。40代以上の転職の実態はどうなのか?
35歳からの転職支援サービス「Career Release 40」や、ミドルシニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」などを運営する、ルーセントドアーズ代表取締役の黒田真行(くろだ・まさゆき)氏に聞いた!
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――転職情報サイトのCMを見ていると「年収800万円以上のハイクラス転職」の市場が活況を呈しているように見えますが、実際、40代以上のミドルシニア転職は増えているのでしょうか?
黒田 ここ数年、40代、50代の転職件数は着実に増えています。ただ、20代、30代の増え方のほうがその何倍も大きいので、それらと比べれば微増ということになります。
ただし、転職情報サイトがマーケティングに力を入れているのは事実で、そうしたサービスの登録者数、つまり転職活動をしている人は確実に増えています。
――それなのに微増?
黒田 たとえるなら、砂を大量に集めて、その中にわずかに含まれる砂金を探すのと同じで、多くの登録者から優秀な人材を見つけるという構造になっているので、転職希望者の中で希望の転職が実現できる人は一部に限られています。
ミドルシニア世代の転職では即戦力としての経験やスキルが求められるので、そうした「売り手市場」の人材と、それ以外とでは状況が大きく異なるのが実情です。
具体的にはIT系のエンジニアや半導体のスペシャリスト、建築業界で施工管理ができる人や、著作権管理に強い国際法務の専門家など、需要のある分野で特別なスキルのある人は40代以上でも引く手あまたの「売り手市場」。60代でスカウトされたり、複数の企業に追いかけ回されたりしている人もいます。
――まさにハイクラス転職ですね!
黒田 そういう「売り手市場」の人たちは、自分から売り込まなくても、ヘッドハンターから自然に声がかかります。そういう人は提示される条件を踏まえて、よそに移るほうがいいのか、今の会社に残るのかという選択肢を持っている状態です。
■大企業の高給取りは錯覚しているケースも
――問題はそうしたスキルを持たない40代、50代。以前なら定年退職まで勤め上げ、そのまま逃げ切れた人も多かったですが、今やそうもいかない人が増えている。そうした悩めるミドルシニアは転職をどのように考えれば?
黒田 そうですね。事務系のホワイトカラーや新規開拓ではない営業職、最近では新聞社やテレビ局などのメディア出身者でも、その多くは、今いる組織以外では需要が高くない「買い手市場」の人材になってしまっています。
そんな人たちの場合、転職うんぬん以前の問題として「この先、自分はどう生きていくのか?」というシビアな問いを突きつけられていると考えたほうがいい。
そこでまず理解する必要があるのは、「自分の希望する条件で転職が決まる」という前提を捨てることです。
実際「自分は大手メーカーで部長として実績を残してきた」という人が、所属企業の業績が傾いて自分もリストラされかけている中で、「年収は最低でも1000万円は欲しい」とこだわった挙句、200社以上も書類選考に落ち続け、精神的に打ちひしがれるというケースも少なくありません。
――うわぁ......悲劇だ(涙)。
黒田 特に大企業で給料が高かった人ほど、自分が「買い手市場」にいる事実を把握しておらず、自分が転職先を選ぶ権利を持っているかのように錯覚しているケースも多い。
中には、数ヵ月かけて転職サイトの求人を見比べて、やっと数社に応募するという慎重派の人もいますが、書類通過率を考えるとまったく行動量が足りていません。
現実は数百社受けて1社でも選考を通ればいいほう。生き残るためには、過去の役職、待遇などは忘れ、プライドを捨てて必死に食う方法を探すしかない。自分の価値を値踏みしている時間があったら、さっさとバットを振ったほうがいい。キャリア評論家になる前にまず動くことが重要です。
■雇用されることになぜこだわるのか?
――どうやら、スキルの有無とそれに対する市場の需要がシビアな運命の分かれ道のようですが、最近、政府もしきりに「リスキリング」と言っていますし、今からでも勉強して資格を取ったり、新たなスキルを身につけたりしたほうがいいのでしょうか?
黒田 確かに「今から資格を取ろう」とか「スキルを伸ばそう」みたいに考える人も多いのですが、企業が求めているのは、つけ焼き刃の資格ではなく〝実践能力〟です。ごく一部の業種を除けば、人を雇うときに資格で決めることはほとんどありません。
――実践能力とは?
黒田 ひと言で言えば「金を生む力」です。例えば、終身雇用で、とある会社から年収1000万円のお給料をもらっていたとして、それはあなたが「朝9時から夕方5時まで会社にいるから」ではなく、実際は会社と価値の交換をしていたワケで、あなたは1000万円相当の価値を会社にもたらしていたはず。だから、仮に年収1000万円で転職したいというなら「雇う側にはそれだけの利益がありますか?」という話になる。
そこでよく言われるのが、社会保険料などを除いたら、収入の3倍ぐらいの粗利を生み出す力が必要だという物差しです。つまり、年収1000万円なら、自分が会社に3000万円の粗利をもたらす力が必要だということになる。
――そう考えると、「年収1000万円欲しい!」と言うのは大変ですね......。
黒田 そうです。転職する人は〝もらうこと〟ばかり考えていますが、雇用する側は簡単にクビにできないなど、それなりにリスクもありますから。もし、自分が雇用主の立場だったら「それでも雇う価値はある」と納得できる相手しか雇いたくないでしょう?
それに関して、もうひとつ転職を望んでいる人に問いたいのが「あなたはなぜ、そんなに人に雇われたいの?」ということです。
――会社に雇われることに固執せず、それ以外の選択肢も考えろということ?
黒田 もし、年収1000万円欲しいと言うなら、フリーランスでも個人事業主でも方法はある。例えば、業務委託契約の形で、毎月10万円の取引先が10社あれば、それで年商1000万円を超えるじゃないですか。
1000万円を雇用という形で得ようとすると、自分を雇ってくれる1社にリスクを負わせた上で、数千万円の価値を生み出す必要がありますが、「月10万円、年間120万円で私のスキルを使いませんか?」と能力を小分けして売ったほうが、報酬を払う側の気持ちは楽になりますよね。そうやって自分でリスクを負いながらスキルを買ってもらうという手もある。
ところが、雇われることにこだわる人ほど「起業なんて怖くてできません」と言ってリスクを負うルートを避ける傾向が強い。でも、40代や50代の人たちはそうした選択肢も含めて考えたほうが、「雇われなかったら破滅してしまう......」というような呪縛から離れて精神的にも余裕ができるし、自分が生きていくための新たなアイデアが浮かんでくる可能性もある。
――要するに、転職でも起業でもいいから、相手が自分に金を払う価値があるのか、自分がそれだけの金を払ってもらえるだけの稼ぎをつくれるのかを考えることが重要、と。
黒田 そうですね。そして、そのとき貴重な財産となるのはそれまでの仕事で築いてきた人脈です。40代、50代の転職では取引先や過去の同僚などとの人脈が重要なリソース。見ず知らずの転職エージェントなんかに相談する前に、まずは自分の手帳を開いて知り合いに相談したりすることをオススメします。
●黒田真行(くろだ・まさゆき)
転職コンサルタント。ルーセントドアーズ株式会社代表取締役。元『リクナビNEXT』編集長。リクルートエージェントのネットマーケティング部部長や、株式会社リクルートメディカルキャリア取締役を歴任。35歳以上向け転職支援サービス「Career Release 40」や、ミドルシニア世代のキャリア相談特化型サービス「CanWill」を運営。
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