[北京/香港 14日 ロイター] - 「卒業したら、中国国内のインターネット関連企業に就職したい」。その夢は破れ、ピーター・リューさん(24)はある国営図書館の仕事に就いた。だが職場ではリューさんの力が必要とされることはほとんどなく、空き時間にはキャリアパスを変えるための勉強に励んでいる。
「大企業に就職することは本当に難しい」と言うリューさんは、北京にある大学でテレビ番組の制作を専攻した後、中部の河南省にある実家に戻った。
リューさんが図書館司書の仕事を見つけたのは、大卒者のために臨時職員を確保するという政府主導のキャンペーンのおかげだ。アナリストらは、景気減速で中国の若者にとって就職が厳しくなる中で、社会の安定性を維持するための短期的な解決策と評している。
こうした仕事は中国で「福祉職」と呼ばれており、受付係や秘書、警備員、コミュニティーワーカーなどの仕事がある。さまざまな政府機関が毎年こうした就職口を提供しているが、通常は高齢者や障害者など、不利な立場にある人々からの応募が集まる仕事だ。
だが今年は、世界第2位の経済大国である中国で若者の就職難が深刻化。大卒者やエコノミストらによれば、中心部から離れた農村地域でのポストを巡っても、一流大学を卒業した若者らの間で激しい競争が繰り広げられているという。
ここ数十年で最も悲観的な世代の不満を抑えるには、雇用が鍵になると政府は見ている。アナリストらは、大卒者がたとえ少しでも就労経験を積めるのであれば、景気の回復につれて将来の雇用主にとってはメリットになる可能性もあると指摘する。
こうした「福祉職」は1―3年の契約。給与はその地域の最低賃金とほぼ同じで、月2000ー3000元(4万2000―6万3000円)だ。食事が無料でつく場合もある。中国の求人サイト、猟聘が行ったアンケート調査では大卒者が希望する初任給は平均8033元であり、これに比べれば大幅に低い。
「福祉職」とは別に、今年はインターン100万人を採用するプログラムがあり、国有企業、民間企業の参加を募っている。
政府による取り組みや雇用市場について人事社会保障省にコメントを求めたが回答は得られなかった。同省は先週、国営メディアにおいて、若年層の雇用は改善しつつあると述べている。
中国はこの1年間、テクノロジー、不動産、金融といった、これまで大量の新規採用を行っていた業界の企業を対象に、規制による負担を一部緩和した。だが国営メディアの論説は、大卒の若者に対して低熟練労働にも目を向けるよう呼びかけている。
6月には1160万人の新卒者が労働市場に流入したことを受けて、若年層の失業率は過去最悪の21.3%に達し、国家統計局は7月にこのデータの発表を停止。11月15日にも4カ月連続で発表が見送られた。
短期の臨時職員やインターンシップに合計でどの程度の人数が就くかは不明だ。ただソーシャルメディアでは、選考プロセスについてのコメントや、キャリア上の選択肢として論じる投稿が多く見られることから、アナリストらは、景気減速のもとで、今後もこうした雇用機会への需要はあるだろうと予想している。
だが、中国の都市部における雇用のうち5分の1を国家部門が担っているとはいえ、こうしたキャンペーンによって経済的圧迫を免れるのは大卒者の一部で、しかも一時的なものに過ぎないとエコノミストらは指摘する。若年層の失業という問題は、長期的に中国政府にとって大きな頭痛の種としてつきまとう恐れがあるという。
「若者の失業という問題はかなり長い間、少なくとも5年から10年は続くだろう」と語るのは、華泰資産管理でチーフエコノミストを務めるワン・ジュン氏だ。臨時職員としての雇用は「安定性維持のための短期的な対策であり、失業がもたらす社会的葛藤を和らげる」と説明する。
中国では1970年代後半から80年代初頭にかけて、毛沢東・元国家主席の指示により農村で働いていた高学歴の若者が都市に戻ったことにより、若年層の失業率が上昇した。90年代末にも、政府が非効率な国営複合企業の縮小に着手したことで若年層の失業率上昇が見られた。
大学を卒業したチェンさん(23)は8月、10人を優に超えるライバルとの競争に勝って、南西部の都市重慶の地域農業センターで秘書の仕事を獲得したという。
「夢と現実のギャップはとても大きい」。教師志望だったというチェンさんは言う。
チェンさんも冒頭で紹介したリューさんも、職場での空き時間を使って、2024年の公務員試験に備えた勉強を進めている。国営メディアによれば、志願者は過去最高の260万人という狭き門になるという。合格すれば、中国で最も羨望(せんぼう)の的となるキャリアパスの1つを歩み始めることになる。経済的には「食いっぱぐれることのない」道と言われることも多い。
リューさんとしては自分が公務員志望になるとは全く予想外だったが、今のところは、少なくともそのチャンスがあることをありがたく感じている。
「1日中家にいる姿を両親に見せたいとは思わない」とリューさんは言う。
(翻訳:エァクレーレン)
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