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サントリー、糖質ゼロビール“失策”の教訓 「N=1」で新ニーズ発見 - 日経クロストレンド

歴史ある社名を冠した渾身(こんしん)の大型商品「サントリー生ビール」が、市場を快走している。発売すると、初速ではスーパーなどで“御三家”と呼ばれるライバル商品が長年占有してきたシェアを一部切り崩すことにひとまず成功。このまま行けば、2023年末にはスタンダードビールでシェア4位の座をものにする可能性も出てきた。サントリーとしては、“プレモル”頼みの一本打法から脱却し、スタンダードビールで大ヒット商品を出すことは長年の悲願だった。なぜ、今回は一矢報いることができたのか。

23年4月に出荷を開始した「サントリー生ビール」。7月に23年の年間販売計画を400万ケースに上方修正するなど好調なスタートを切った

23年4月に出荷を開始した「サントリー生ビール」。7月に23年の年間販売計画を400万ケースに上方修正するなど好調なスタートを切った

 23年4月に販売を開始した「サントリー生ビール」の売れ行きが好調だ。大手スーパーなどでは、普及価格帯のスタンダードビールで“御三家”とされる「サッポロ生ビール黒ラベル」や、22年に市場を大いに沸かせた新商品「アサヒ生ビール」を4月に上回った。5月以降も勢いは衰えず、当初年間販売計画として掲げた300万ケースを近々達成しそうな勢いだ。

 需要期である夏シーズンの到来によって販売に弾みが付くと見て、7月には年間販売計画を400万ケースに上方修正。スタンダードビールの競合商品よりも店頭想定価格の設定が10円安いことから、売りやすいとしてビール売り場で目立つ場所に陳列する小売店も増えている。

 「3年後に、年間1000万ケースに達成するのが理想だ」。サントリーでビール事業を統括する執行役員ビールカンパニーマーケティング本部長の多田寅氏は、こう語る。ビールの世界で年間1000万ケースはヒットの目安だ。

 ライバルである現在スタンダードビールでシェア2位のキリン一番搾り生ビール(22年の年間販売ケース数は2260万ケース)の背中は遠いが、もし1000万ケースを達成できれば、3位のサッポロ生ビール黒ラベル(同1399万)の背中が見える位置に付けられる。23年にひとまず業界4位を確保し、うまくすれば24年以降に3位以上にランクアップを狙えるわけだ。

悲願だったスタンダードビールでヒットの芽

 高価格帯の「ザ・プレミアム・モルツ(プレモル)」のイメージが強いサントリーにとり、スタンダードビールのジャンルで消費者から支持を得る商品を市場に送り届けることは悲願だった。1986年発売の「モルツ」、15年発売の「ザ・モルツ」といった商品はあったものの、必ずしもマスの心をがっちりつかめていたわけではなかった。ザ・モルツの場合、ピーク時でも年間500万ケース強で足踏みしていた。「サントリー生ビールの登場で、多様なニーズを受け止めるビール事業のフォーメーションが完成した」(多田氏)

サントリーでビール事業を統括する執行役員ビールカンパニーマーケティング本部長の多田寅氏

サントリーでビール事業を統括する執行役員ビールカンパニーマーケティング本部長の多田寅氏

 実はサントリーは、何が何でも23年にスタンダードビールの大型戦略商品でヒットの糸口をつかみたかった事情もある。というのも同社は1963年に武蔵野ビール工場でビール醸造を開始し、社名も寿屋からサントリーに変え、23年は60周年という節目の年。だからこそ、このタイミングに照準を合わせ、足かけ5年がかりで開発したのがサントリー生ビールだった。

 通常の10倍以上となる約300回もの醸造テストを実施したことや、商品名に社名を冠したことからも、同社の本気ぶりが伝わってくる。

 とはいえスタンダードビールは、「アサヒスーパードライ」など御三家が長年席巻し続け、割って入るのが難しいとされてきた市場。なぜサントリー生ビールを消費者の心に刺さる形でリリースできたのか。その秘密は、従来型のビール開発のアプローチをいったん捨て去り、“0→1”(ゼロイチ)の発想で、ライバルも気付かなかった隠れた消費者のインサイトを導き出したからにほかならない。

 「ビールを手掛けてきた事業部ではなく、21年4月に新設したイノベーション部主導で、商品開発からマーケティングまで手掛けた」。多田氏はこう明かす。ビール事業経験者だけでなく、営業部門や清涼飲料事業部門、経理部門、醸造家などを、バランスよく多岐に渡る経歴を持つ人材約10人を集めた。 単独でアイデア策定からコミュニケーション戦略、試作、商品化まで一気通貫で実行できる混成部隊であり、自由にのびのびと、固定概念にとらわれない新商品を生み出すのが狙いだ。

 イノベーション部発の第1弾商品として22年に発売したのが「ビアボール」だ。業界初の好きな濃さに炭酸水で割れるとあって話題を呼んだ。そして第2弾として、イノベーション部が世に送り出したのが、スタンダードビールの大型戦略商品であるサントリー生ビールだった。

 ポイントは、業績に直結する事業の中核を担う戦略商品も、イノベーション担当部門に任せる判断を下したことにある。

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